うつ病の治療に用いられる薬を「抗うつ薬」といいます。

うつ病の発症の基盤には、脳内のメカニズムの障害という「生物学的な原因」があることがわかっています。脳内の神経伝達物質であるアミン(ノルアドレナリン、セロトニンなど)の働きが低下したために、神経細胞間の情報伝達が阻害されて、うつ病が起きるのではないかと考えられているわけです。

抗うつ薬は、種類によってこまかな作用機序(働きの仕組み)は異なりますが、基本的にはこうしたノルアドレナリン、セロトニンなどの神経伝達物質の働きを増強して、神経細胞間の情報伝達を促進することで、うつ病の改善をはかるものです。

具体的には、①意鉱几進(思考、行動面の抑制をとり除いて意欲を亢進させる)、②気分高揚(抑うつ気分を解消して気分を高揚させる)、③不安解消(不安や緊張、焦燥感などをとり除く)という主に3つの効果があります。

この3つの効果のあらわれ方は、抗うつ薬の種類によって、それぞれ強弱があります。また、ひと口にうつ病といっても、人によって症状の出方はさまざまです。たとえば、ゆううつ感が特に強い場合もあれば、不安・焦燥感が目立つ場合もあります。そこで、実際の治療にあたっては、それぞれの患者さんの症状に合わせて、用いる薬を選ぶことになります。薬の種類にもよりますが、抗うつ薬は服用し始めてから効果が感じられるまでに早くても1凋簡ぐらいはかかり、十分な効果があらわれるまでには4週間ほどかかります。最初は身体症状が軽くなり、次に抑うつ気分が次第に消えて、そのあとに意欲が出てくることが多いようです。うつ病は、軽症の場合は短期間で軽快することもありますが、多くの場合はすっかりよくなるのに半年ぐらいはかかります。抗うつ薬も徐々に量を減らしながら、4〜6カ月間は服用しつづけるのが一般的で、時には1年、2年以上と服用し続けることもあります。八分どおりよくなったから、あるいは副作用が気になるからといって、自己判断で早い時期に服用を中止すると、症状が逆もどりしてしまうので、医師の指示どおりにきちんと飲みつづけることがたいせつです。

三環系・四環系の抗うつ薬

日本で主に使用されてきた抗うつ薬は、その化学構造によって、①「三環系抗うつ薬」②「四環系抗うつ薬」③その他に分類されています。この中で以前から使われ、今でもよく用いられているのが三環系抗うつ薬です。「三環系」という名称は化学構造に3つのベンゼン環(亀甲形で表記される)を持っていることからきています。

1957年にイミプラミンの抗うつ効果が確認されて以来、アミトリプチリン、トリミプラミン、クロミプラミンなど、数多くの三環系抗うつ薬が開発され、うつ病の治療に用いられてきました。トフラニール、トリプタノール、スルモンチール、アナフラニールなどといった商品名の薬は、いずれもこの三環系抗うつ薬です。

これらのイミプラミンをはじめとする、1950年代から1970年代に開発された三環系抗うつ薬は「第一世代抗うつ薬」または「古典的抗うつ薬」と呼ばれています。

第一世代抗うつ薬は、うつ病の薬物療法の中心的役割を担ってきましたが、抗コリン作用による副作用があらわれやすく、抗うつ効果があらわれるのに時間がかかる(10日〜2週間)というデメリットがありました。ことに、副作用のほうが抗うつ効果よりも早くあらわれた場合には、患者が勝手に服用を中止してしまいがちであるという問題点も指摘されていました。そのため、1980年代以降になると、三環系抗うつ薬ではあっても副作用の少ないものや、4つのベンゼン環を持っている四環系抗うつ薬が開発されるようになりました。これらの抗うつ薬を「第2世代抗うつ薬」と呼んでいます。

第2世代抗うつ薬にあたる三環系抗うつ薬には、アモキサピン、ロフェプラミン、ドスレピンなどが、四環系抗うつ薬には、マプロチリン、ミアンセリン、セチプチリンなどがあります。第2世代抗うつ薬の特徴は、第一世代抗うつ薬にくらべて抗うつ効果があらわれるのが早く、副作用も少ないという点です。しかも、四環系抗うつ薬には1日1回の服用ですむものもあって、その利便性も大きなメリットです。こうした長所を持つことから、近年では、うつ病の薬物療法において第2世代抗うつ薬が頻繁に使われるようになってきました。ただ、抗うつ効果自体は、第1世代抗うつ薬のそれを上回るものではなく、かえって効果が弱いという印象を持っている医師も少なくないようです。

それ以外の抗うつ薬

三環系抗うつ薬、四環系抗うつ薬以外の抗うつ薬としては、モノアミン酸化酵素(MAO)阻害薬、スルピリドや炭酸リチウムなどがあげられます。モノアミン酸化酵素(MAO)阻害薬は、他の抗うつ薬にくらべて、意欲亢進作用が著しく高いのが特徴です。

また、抗うつ作用とともに、強迫観念にもとづく不安や抑うつ症状、強迫神経症にも効果があります。しかし、肝障害をはじめとする副作用が起こりやすく、服用時の食物摂取に制限があるなど使用上の制約が多いために、現在、日本では発売中止となっています。

一方、欧米では、第三世代の抗うつ薬として、副作用の少ない新しいタイプのモノアミン酸化酵素阻害薬である「RIMA」(選択的可逆的MAO-A阻害薬)が開発され、すでに臨床で広く使用されています。その中の一つであるモクロベマイドは、現在、日本でも開発・治験が進行中で、早期の発売が期待されるところです。スルピリドは、三環系、四環系といった一般的な抗うつ薬とはまったく異なる化学構造を持つ個性的な薬剤です。もともとは食欲促進薬や潰瘍治療薬として使用されていましたが、抗うつ作用があることがわかり、うつ病のほか、神経症、精神分裂病の治療にも用いられています。三環系、四環系抗うつ薬にくらべると、抗うつ作用は劣りますが、抗コリン作用による副作用が少なく、即効性があるのが特徴です。

炭酸リチウムは、躁状態・うつ状態の両方を正常化する作用のある薬です。双極性うつ病(躁うつ病)に特に有効ですが、単極性うつ病にも効果を示します。また、炭酸リチウムには予防効果があり、ごく少量の炭酸リチウムを長期にわたって服用する維持療法が、うつ病の再発防止に有効であることがわかっています。