大きく「精神症状」と「身体症状」に分けられる。

「うつ病」と正常範囲の「うつ」を見分けるのは、専門医といえども苦労するところとされています。しかし、多くのうつ病の患者さんを診察する医師は、やはり正常の落ち込みの場合とは異なる、うつ病の病像が浮かびあがってきます。うつ病自体は早期発見によって全快が望める〃心の病″ですので、うつ病本来の症状を一刻も早くとらえることが必要になってきます。近年、社会環境の変化に伴い、うつ病の症状に軽症化・身体化が加わり、そのあらわれ方は非常に多彩になってきています。ここではわかりやすいように、典型的なうつ病の症状について説明いたします。

先ず、うつ病の症状は、「精神症状」と「身体症状」の大きく2つに分かれます。

精神症状

精神症状は「感情」「思考」「意欲」の大きく3つの面に分けられます。

  • 感情面

中心症状は「抑うつ気分」です。ゆううつ感、イライラ感、不安感、焦燥感などを主とし、ついには「自殺念慮」(死にたいと願うこと)に至ることもあります。抑うつ気分の基本は気持ちの沈みですが、実際に患者さんに接していると、「ゆううつ」という言葉で直接的に表現する人はむしろ少ないものです。「なんとなく気が晴れない」「ひとりでいると寂しい」「理由もなく悲しくなる」「テレビを見てもおもしろくない」「将来に希望が持てない」「自分がつまらない」といったさまざまな表現で気持ちを訴えます。どんな言葉や言い回しで表現されるかは、その人の社会的・文化的背景、仕事や生活環境などによって変わってきます。このようなうつ病特有の沈んだ気持ちは、程度が軽いうちは自分ひとりで悩んで周囲に気づかれないことが多いのですが、程度が重くなると自分から他人に訴えたりもします。さらに程度が重くなるにしたがって、言葉で表現しなくても、表情や姿勢、話し声、涙もろくなるなど、態度や様子にあらわれるようになります。

  • 思考面

中心症状は思考力減退で、集中困難、興味や関心の低下、判断力や記憶力の低下なども伴います。まず、特徴的にみられるのは「思考の制止(抑制)」です。「頭がさえない」「頭がボーッとする」「考えが進まない」「考えがまとまらない」「同じことばかり考える」などと表現されます。そうした思考の制止を反映して、話し方のテンポも遅くなり、言語表現も乏しくなってきます。さらに悪化すると、自己否定的な考え方にとらわれるようになります。「あれをしなければよかった」と後悔の念に苦しみ、そのうえ「人生になんの希望もない」と将来に絶望したり、「自分には能力がない」などと自己を卑小に評価したりします。

また、生命、経済状態など、自分を支える根源的なものが危機に瀕しているという考えにとらわれて、ときにそれが不合理な妄想にまで至ることがあります。よくみられるのは「貧困妄想」「心気妄想」「罪業妄想」などです。特に老年期のうつ病では、こうした妄想が形成されやすいといわれています。

  • 意欲面

一言でいうと、いろいろな行為が抑制されて、何をするのも「おっくう」になってしまうのが中心症状です。すべてに無気力になり、行動力や集中力が低下し、なにごとにも意欲がわかない、決断力が低下する、内にこもる、妄想にとらわれるなどの症状があらわれます。

「何かをしようという気が起こらない」「何かをしなければならないと思っても、手が出ない」「手をつけても、根気がつづかない」「人と会ったり、話したりするのがめんどう」「小さなことでも決断ができない」「責任のないこと、たとえば趣味のことならできるが、仕事には自信が持てない」などと訴えるようになります。ふつうであれば、もっと積極的であるはずの行動が抑制されるので、注意していれば、本人も周囲も気づきやすいのですが、悪化すると混迷状態に陥り、自殺につながることもあるので注意が必要です。

身体症状

うつ病というのは、気分の落ち込みといった精神症状だけでなく、さまざまな思いもかけない身体面の症状があらわれるのが特徴的です。

最近では「仮面うつ病」など、むしろ身体症状のほうが前面に出てくることさえあるほどです。身体症状はさまざまありますが、必ずといってよいほど、うつ病の人にみられるのが睡眠障害です。睡眠障害とは、ひと言でいえば「不眠」です。青年期のうつ病、あるいは双極性うつ病では「過眠」の症状を示すこともしばしばありますが、ほとんどの場合、うつ病の睡眠障害といえば不眠のことです。

不眠には大きく分けて、①寝つきの悪い「入眠障害」、②眠りが浅くて何度も目が覚めて熟睡感がない「熟眠障害」、③夜中または早朝に目が覚めて眠れない「早朝覚醒」などがあります。

うつ病では、どの型の不眠も重複してみられますが、特に多いのは「熟眠障害」と「早朝覚醒」です。目が覚めたときは抑うつ気分が非常に強くて、後悔や自責の念や将来への悲観などに苦しみ、あれこれ悩みながら寝返りを繰り返すことになります。悪夢を見ることも多いようです。当然、寝覚めも悪く、疲労感が残って、なかなか起床することができません。つらい一日がまた始まると考えるとゆううつで、何もかも放り出してしまいたいという思いにかられます.このような厭世観を伴うところが、単に神経質な人の不眠と大きく異なる点です。

うつ病の不眠の場合、特に早朝に目が覚めて、ひとりでいるときに「自殺企図」(自殺を図ること)を突然起こしたり、あるいは実行したりするケースが多いことがわかっています。こうした自殺を予防するためにも、不眠の治療は非常に重要です。

うつ病では、そのほかに全身の倦怠感、頭痛、耳鳴り、めまい、味覚異常、首や肩のこり、関節痛、腰痛、しびれ感、食欲不振、口の渇き、胃部不快感、腹部膨満感、腹痛、便秘・下痢、胸部圧迫感、頻尿、性欲減退など非常に多彩な症状が出てきます。

このように、一見、うつ病とは関係ないように思われる症状があらわれてくるので、それらを見落とさないように気をつける必要があります。