うつ病の分類法で絶対的な方法として認められ、評価が確立しているものはないと述べましたが、それは、うつ病という疾患の起こるメカニズムが十分にわかっていないからです。特に原因については、生物学的研究を中心に徐々にあきらかになりつつありますが、まだまだ不明な点が多く、そのため治療法も一貫していません。

そもそも精神科の病気全般にいえることですが、今でも「○○病」というように断言できる精神疾患はないといっても過言ではないのです。

てんかんや脳の器質性の病気など一部の例外を除いては、その定義や概念がきちんと確立し、病態が理論的に説明でき、はっきりした原因、症状、経過、治療といった流れができあがっているものはありません。

そのため、症状が似ているものを集めて「症候群」としてとらえるのがよいという考え方もあります。

こうしたことから、最近では、うつ病というように「病」という言葉を使わない傾向も出てきました。アメリカの新しい精神障害の診断基準では「気分障害」という項目を設け、その中に、これまでうつ病、あるいは躁うつ病と呼ばれていたものを含めています。

また、世界各国で病気の分類を統一しようという目的でWHOが作成した国際疾病分類(ICD10)においても、やはり「気分(感情)障害」という項目を設けて、その中に、これまでのうつ病や躁うつ病を含めています.

日本でも、ここ数年、気分障害として精神病から外す傾向が出てきています。

ただ、実際の臨床現場では、現在もうつ病と呼ぶことが多く、一般の人もそのほうが馴染み深いでしょう。

気分障害

日本では「うつ状態」と「うつ病」という言葉を区別して用いるのが普通です。「うつ病」はあくまでも病名ですが「うつ状態」とは文字どおり、そうした「状態像」を示しています。

「うつ状態」はさまざまな疾患に伴っても起こります。ほかの精神疾患、たとえば精神分裂病や神経症(ノイローゼ)でも、症状として「うつ状態」があらわれることがあります。しかし、当然ながら、これらは「うつ病」ではありません。また、身体的疾患や薬物の影響でも「うつ状態」は起きることがあります。

一方、アメリカなど英語圏では、「うつ状態」も「うつ病」も同じく「Depression」(意気消沈、ふさぎ込み、憂鬱などの意見)と呼んで、両者を区別しないことが多いようです。

近年、アメリカの医学界を中心に精神疾患の新しい分類が試みられ、うつ状態や躁状態を繰り返す病気を「気分障害」と呼ぶようになってきています。「感情障害」と呼ぶこともあります。

この新しい分類法によりますと、気分障害のほとんどは、うつ状態のみを繰り返すタイプと、躁状態とうつ状態の両方を交互に繰り返すタイプの2つに分けられます

このうち、うつ状態のみを繰り返すタイブを「大うつ病」といいます。耳慣れない言葉ですが、これは従来「単極性うつ病」あるいは単に「うつ病」と呼ばれていたものです。

一方、躁状態とうつ状態の両方があるタイプを「双緬怪障害」と呼びます。これは従来「躁うつ病」あるいは「双極性うつ病」と呼んでいたものです

氣泣障害の中には、大うつ病(うつ病)と双極性障害(躁うつ病)があることになりますが、ほとんどは大うつ病で、その割合は75%が大うつ病、25%が双性障害であるとされています。これまでの研究によりますと、大うつ病・の発症のピークは40から60才で、男女比は1対2前後とされ、女性のほうが多いことがわかっています。一方、双極性障害を発祥する年代のピークは30才ぐらいで、男女比はおよそ1対1と差はみられません。

また、うつ病の症状として特有の睡眠障害を見てみると、大うつ病の睡眠障害い、寝てもすぐに目が覚める、あるいは朝早く目が覚めてしまうといったものです。それに対して、双極性障害では、うつ状態のときもふつう以上に寝てしまう、つまり過眠傾向がしばしばみられます。

このように、大うつ病(うつ病)と双極性障害(躁うつ病)とではさまざまな違いがあることから、両者はまったく異なるものであり、はっきり区別してとらえるべきだという考え方が有力になってきています。