みなさんも経験があると思いますが、人間には誰でも気分の浮き沈みがあります。どんな人でも一度や二度は仕事や勉強などがうまくいかずにスランプに陥ったことがあるでしょう。

イヤな出来事があって、ゆううつになったり、異性に振られて気分が落ち込み、何もやる気が起きないといった経験も誰しもあると思います。

それでも、ふつうはいつの間にか精気をとり戻して、もとのように再び元気に活動ができるようになるものです、こうした一過性の気分の落ち込みならば正常の範囲であり、差し当たって心配はいりません。

ところが、こうした沈んだ気持ちや元気のない状態がいつまでもつづいて、もとのように回復しない場合があります。それが「うつ病」です。

うつ病の気持ちは「雨降りの日の感情ともいわれるように、なにかしら物悲しい、ばく然としたゆううつな気分です。その気分は「気の沈み」「寂みしさ」「悲しみ」「不安」「厭世観」「焦燥感」「劣等感」「虚しさ」「気がめいる」「つまらなさ」「うっとうしい」「おっくう「重苦しい」など、さまざまな言葉によって表現されます。

このような沈んだ気分を精神医学では「抑うつ気分」と呼びます。抑うつ気分は、うつ病の精神症状として第一にみられるものです。

いつまでもゆううつで、おっくうな状態がつづきますと、ついには自分はもうダメになってしまったと考えてしまい、自己卑下や自責の念にかられるようになります。「自分は生きている価値がない」「この世から消え去ってしまいたい」などと考え始めます。

やがては、ゆううつ感などの感情面より、意欲や行動面での障害があらわれてきて、何かに抑えつけられたように決断や実行ができなくなります。まるで「油の切れた雨奉呈のような状態といえばよいでしょうか。

要するに、うつ病は人間が本来持つ元気がなくなり、それに伴って意志や行動も低下する「心の病」といえるでしょう。

正常な範囲の一時的な「うつ」との区別が重要

これに対して、正常な範囲の気分の落ち込みについては、医学的には単に「うつ」と呼んで、うつ病とは区別しています。

ただ、そうした「うつ」で一時的に気持ちが落ち込んだ状態と、うつ病の抑うつ気分をくらべると、気分の落ち込みそのものについては質的な差はあまりないといわれています。

気分の落ち込みが一時的で、時がたつにつれて消えていくようならば正常の範囲であり、数週間あるいは数カ月というように非常に長くつづき、日常生活や社会生活に支障をきたすようであれば、それは、うつ病にかかっていることになります。

うつ病の場合、気分の落ち込みが正常の人と心理的には同じような性質と考えられますから、どこまでが正常で、どこからが病気かを決めるのは非常にむずかしいのですが、それは、専門医がそれぞれの患者さんを診察して判断することになります。

古くから存在するうつ病

うつ病は人類の歴史が始まって以来、古くからある病気です。

ゆううつなことを英語では「メランコリー」といいますが、これは「黒い胆汁」意味する「メランコリア」というギリシャ語から来ています。

古代ギリシャの病理学では、病気は血液や粘液、胆汁、黒胆汁などの体液間のバランスがくずれた結果、起こると考えられていました。

紀元前4世紀の医学者・ヒポクラテスは、黒胆汁の温度や量、流れる方向などによって、うつ病の症状が起きると考え、「恐怖感とゆううつが長い間つづくのは、メランコリアという病気である」と述べています。

今日のうつ病や躁うつ病の概念を確立したのはドイツの精神医学者、クレペリン(1856〜1926)で、時期的には19世紀末のことです。

ただし、当時のうつ病の概念は、重症の躁うつ病のことを指していたといえます。近年では、こうした重症の躁うつ病よりもずっと軽いうつ病(軽症・うつ病)が増加しており、古典的なうつ病に対する考え方や治療法だけでは対応ができなくなってきています。